沈黙の肖像

経歴/career
展示/exhibition
キュレーション/curation
ステートメント/statement

小森紀綱は諸宗教の宗教的対象や古典絵画のアトリビュート(特定の人物や神々に帰属する対象物)を引用することで形而上学的絵画を制作している。小森の絵画制作は図像解釈や理論構成、宗教倫理などエピステーメから出発している。絵画の骨組みともいえる(構図、パースペクティブ、人物、アトリビュート、色彩、光源などの基礎要素)を複雑に張り巡らせ、時にはチグハグに入れ替えることでコードを集積させて超現実的な絵画を構築している。異なる宗教や様式をコラージュするように織り交ぜることで事物に内在していた共通項や相違が紡ぎ出されているのだ。ここで結ばれる関係は位相関係にある物事を手繰り寄せるものであり、いわば位相同図法的な手つきによってもたらされているといえるだろう。

小森自身に根ざしている宗教観や自然哲学と「人がなにかに対して抱く印象を共通的に導き出したイメージ像」が結びつけられることで宗教的肖像が変質されている。小森に根ざしているこの宗教観は彼の生い立ちが深く関与している。高野山真言宗の寺院の元に生まれた小森には異なる宗教を信仰してきた両親(父親は仏教の僧侶、母親はカトリックを信仰する家系生まれ)がいる。幼い頃から密教の教えに影響を受けながら多種多様な信仰のあり方への知見を深める中で、小森は異なる価値観や宗教の形相を結び付けられる唯一の方法として芸術を見出した。

受胎告知におけるハンドサインやカラヴァッチョに代表されるような劇的な明暗差の書き分けなどルネサンスやバロック期を主なサンプリング元として引用することは、西洋美術史を通して小森の理に循環作用をもたらし有機/無機的な描き分けを実現させている。認知の枠組みの外側に目を向けることは現実の向こう側に広がる世界を創造し、美術史や宗教史上の多元的な歴史のパラタイムをつなぎ合わせる。つまりこの絵画作品において示されている姿勢そのものが小森自身の信仰と重なっているのだ。

テキスト:原知慶